ストロイドの塗り薬を長期にわたって塗り続けると、いつかは効かなくなってしまう…
アトピー性皮膚炎の治療について勉強したことがある方なら、必ず1度は耳にしたことがあると思います。
せいまる
この記事では、皮膚科系薬剤師のせいまるが、ステロイドを使い続けるといつかは効かなくなるという説の真相について解説します。
この記事でわかること
効かなくなるというのは本当?
ステロイドを使うことでいつか効かなくなるという説については賛成派と否定派の両方の意見があり、賛否両論です。
実際のところ、皮膚科医の中でも意見が分かれているが現状です。
そこで、両方の意見について日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン上ではどのように記載されているのかを確認してみます。
効果の減少を指摘する声
ステロイド外用薬を用いた治療中に,当初改善して いた症状が再燃することもある.この現象の背景にステロイド外用薬の長期使用に伴う急速な効果の減弱 (タキフィラキシー)を指摘する声も聞かれる
ガイドライン上にも、ステロイドを長期連用した場合に効果が減弱する声があると言う記述があります。
これは、皮膚科医の経験則に基づく意見であると思われます。
さらに詳しく見て行きます。
効果が減る可能性
ステロイドの血管収縮作用に着目し,ステロイド外用薬がヒ スタミンによる血管拡張に与える影響を検討した報告によると,外用開始 14 日目には血管収縮作用の低下が見られ,皮膚炎の存在下ではより早期に効果の減弱を認めたという
少し難しい表現があります。
ステロイドの強さを判定する基準として、血管の収縮する強さを測定する方法があります。
その強さをヒスタミンという成分を使って実験で確かめたところ、ステロイドの効果が減っていることがわかったとのことです。
ヒスタミンとはアレルギー反応やかゆみに関わる成分です。
ヒスタミンが血管を拡張する力があるので、それをステロイドの血管収縮させる力で打ち消すという実験です。
実際のメカニズムはもっと複雑
これらはヒスタミンの効果をステロイドで抑制する実験であり,ヒスタミン以外の機序も 大きく病態に関与するアトピー性皮膚炎にそのまま当てはめて考えることはできない
ガイドラインによるとヒスタミンの効果を打ち消す力は確かに弱くなるが、アトピー性皮膚炎の炎症やかゆみには様々因子が関わっており、ヒスタミンの働きだけでは判断がつかないとのことです。
血管収縮作用が減ったという結果だけを、治療効果が減ると結論付けることはできないということです。
効果がない場合はお薬の使い方が適正でない場合も考える
皮膚炎の治療中に期待された効果が得られない場合は適切に外用が行われたか確認をすることも大切である
効果が得られないと感じられた場合は、ステロイドの強さや塗り方が正しいかをもう一度確認するべきという考えです。
せいまる
ガイドラインのこの文章からは、日本皮膚科学会はステロイドを長期にわたって使用しても効果がなくなるとは考えていないという立場をとっていると読み取ることができます。
皮膚科学会の考え
ステロイドを長期に使用することで一部の効果が減弱する可能性を示す研究データはあるものの、ステロイドを皮膚科医の指導のもとで適正に使用していれば、効果がなくなることは心配しなくて良いという考えです。
つまり、皮膚科学会はアトピー性皮膚炎の治療の方針を定めており、その方針通りに治療を進めることが最も重要ということを示しています。
皮膚科学会の治療方針
アトピー性皮膚炎診療ガイドラインでは、基本的な治療方針として、3つの治療方針を定めています。
- 薬物療法
- 皮膚の生理学的異常に対する外用 療法・スキンケア
- 悪化因子の検索と対策
この3つを基本に治療を進めていくと、ステロイドの効果の減弱については心配する必要がないということです。
これらの基本方針については別の記事でまとめ解説します。
適切に使っていても効かないと感じる場合
しかし、実際にステロイドを正しく使用していても効果が減ってきているように感じるという声は一定数あるのが実際のところです。
場合によってはむしろ悪化していると感じられる場合もあり得ます。
その理由にはステロイドの減弱とは異なる2つの可能性が考えられます。
- ステロイドの塗り薬に対してアレルギー反応が出ている
- 皮膚で細菌の感染症が起きている
この2つのパターンについて解説します。
ステロイドの塗り薬に対してアレルギー反応が出ている場合
ステロイドの塗り薬は有効成分であるステロイドと薬を形成している基剤の2つの要素でできています。
ステロイドを塗っているのにも関わらず症状が悪化したりする場合は、有効成分か基剤のどちらかに対して、接触性皮膚炎というアレルギー反応を起こしている可能性が考えられます。
その場合は、基剤に含まれる成分が原因のことが多いと考えられます。
ステロイドのお薬をジェネリックに変えたり、ほかのお薬に変えたりすることで解決できることが多いです。
ジェネリックは有効成分は全く同じですが、基剤については異なることが多いので、ジェネリックに変更することで、アレルギー反応を回避できる可能性があります。
また、基剤を変えるには、剤形を変える(クリームから軟膏に変更するなど)方法もあります。
ステロイドの有効成分そのものにアレルギー反応が出ている場合は、ランクの同じステロイドやプロトピック(タクロリムス)軟膏に変更することで解決できます。
お薬を使用していて合わないと感じたときは医師や薬剤師に相談して、お薬を変更してもらいましょう。
ステロイドの塗り薬による接触性皮膚炎(アレルギー反応)についてはこちらの記事で詳しく解説しています。合わせてご覧ください。
【薬剤師が解説】ステロイドを塗ったらかゆくなった?その理由と対処法【アトピー塗り薬】皮膚で細菌の感染症が起きている場合
アトピー性皮膚炎では、皮膚のバリア能力が低下しているため、細菌の感染症が起こりやすくなっています。
さらに、ステロイドの作用によって塗った部分の免疫力が低下している可能性もあります。
これらが原因となり、細菌の感染が炎症部分で起こっている可能性は十分に考えられます。
その感染症が原因でアトピー性皮膚炎の症状が悪化している場合があります。
皮膚科の先生は皮膚の状態を見て感染症が起きているのかを診断し、適切なお薬を処方してくれます。
皮膚の感染症を見逃さないためにも皮膚科へ定期的に通うことをお勧めします。
まとめ
確かに、ステロイドを塗り続けることで効果が減る可能性を示す研究データは存在します。
しかし、それは治療に影響を及ぼすほどのものではないと考えられます。
せいまる
そのため、ステロイドを使い続けると効果がなくなるかもしれないからといって自己判断で塗る量を少なくしたり、塗るのをやめてしまうのは良くありません。
かえって症状を長引かせてしまい、治療に悪影響を及ぼすということです。
せいまる
また、ステロイドとは異なる作用メカニズムを持つプロトピック(タクロリムス)軟膏を切り替えながら使うことも有効です。
プロトピック(タクロリムス)軟膏の効果や注意するべき副作用について解説しています。合わせてご覧ください。
【薬剤師が解説】プロトピック軟膏の効果と正しい使い方【アトピー塗り薬】また、ステロイドが効かなく感じられる可能性として、接触性皮膚炎や細菌感染症などの可能性もあります。
皮膚科の先生に定期的に皮膚の状態を確認してもうことが大切です。
ステロイドのお薬を強さ順に一覧表にしました。合わせてご覧ください。
【薬剤師が解説】ステロイドの強さランキング【一覧表・総まとめ】最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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せいまる